医療

「労働災害」、「職業病」から「勤労者医療」へ
労働災害や職業病への対応を直接の役割としてきた労災病院が地域の中核病院として発展し、また、産業構造や就業構造の変化が進む中で、その新たな役割を示す概念として、より膨らみを持った、「勤労者医療」という考えが登場しました。

「勤労者医療」とは、勤労者の健康と職業生活を守ることを目的として行う医療及びそれに関連する行為の総称である。 具体的には、疾病と作業・職業環境等との関係を把握し、そこからもたらされる情報をもとに、働く人々の疾病の予防、早期発見、治療、リハビリテーションを適切に行い、職場と連携して職場復帰、及び疾病と職業生活の両立を促進することはもとより、 疾病と職業の関係についての研究成果及び豊富なデータの蓄積の上に、その全段階を通して、働く人々の健康の保持・増進から職場復帰に伴う就労に対する医学的支援に至る総合的な医療を実践することをいう。

「勤労者医療」の登場が意味するもの
勤労者医療という概念の登場は、①勤労者の健康をめぐる環境の変化は、もはや、「労働災害」、「職業病」という概念のみでは捉え切れない、不十分であるという時代認識を意味し、②職業生活を守るという目的に照らせば、おのずと、予防重視の方向性が内包されていることを意味します。

「作業関連疾患」という考え方
「勤労者医療」の理解を助ける考え方として、「作業関連疾患」があります。
これはWHOで提唱されたもので、1982年のWHO専門委員会報告では「疾病の発症、増悪に関与する数多くの要因の一つとして、作業(作用態様、作業環境、作業条件など)に関連した要因が考えられる疾患の総称」と定義されています。
その類型としては、大きく次の三つに分けられています。

①発症の主な要因が一つであり、その要因が作業過程で労働者に作用して発症した疾患②発症の主な原因が複数あり、作業とは関係のない要因でも発症することがある疾患ではあるが、作業条件中の要因が関与して発症した疾患③作業とはまったく無関係に発症した疾患ではあるが、増悪要因の一つとして、作業に伴う何らかの要因が関与した疾患すべて

 ①に当たるものは、いわゆる職業病です。
②と③の類型の具体例としては、高血圧症・虚血性心疾患などの心血管疾患、慢性気管支炎・肺気腫・気管支喘息などの慢性非特異性呼吸器疾患、腰痛症・頚肩腕症候群・骨関節症などの筋骨格系疾患、感染症、悪性腫瘍、胃・十二指腸潰瘍などがあります。
この「作業関連疾患」という考え方は、現在の勤労者の健康問題を把握するのにふさわしいものだと思います。定期健康診断の有所見率が50%に達しようとしており、労災保険の適用範囲が予防的分野にまで拡大されることとなった現在にあっては、「労働災害」や「職業病」という概念では、勤労者の健康問題を捉えるには狭すぎます。その意味で、「勤労者医療」は「作業関連疾患」を対象としている、と言うことができます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました